物流業界新聞 ブツリュウアイ様 2020年 153号
こどもたちの夢のために~
上記新聞の内容(原文そのまま)
猪上氏が実践する「和プロジェクト」は、自治体やさらに小さなコミュニティが抱える問題を解決する大きな可能性を秘めている。おさらいになるが、プロジェクトの基本的なコンセプトは4つの「わ」で成り立つ。それは、日本人の心としての「倭」、そして一人が得をするのではなく皆に循環させる「環」、人と人がつながる「輪」、最後に互いに相手を思いやり協調する「和」だ。具体的な活動内容は家庭や企業、自治体などから出る不要品を回収し、必要とする国々に有償(一部無償)で使ってもらうというもの。始まってから3年目となったこの活動が着実に広がりを見せているのだ。
きっかけは2011 年の東日本大震災。猪上氏の子供たちが通う待つ松山小学校のPTA 会長や校長先生の呼びかけで集めた物資を宮城県気仙沼に児童の手紙と一緒にトラックで届けた。被災地で知り合った人々との縁で、同年に起きたタイ大洪水の際、宮城県と岩手県の災
害対策本部に残った物資をタイへ送ると、現地の人々にとても喜ばれた。「不要になった物がこんなに役立ち喜ばれるのか」。猪上氏は、不要品の輸出・販売事業を本格化させた。これまで中古ピアノやエレクトーン、金庫といった軽重量物の輸出をしてきたが、加えて引越し事業者や雑事代行サービスなどと提携し、使わなくなったソファーや家具、ぬいぐるみや自転車などの家庭用品の回収を行うようになった。不要品のみの輸出では採算が取れないが、軽重量物と同じコンテナの余ったスペースを使えば十分に成り立つうえ、国内のゴミを減らし海外で再利用してもらえるのならば社会貢献にもなる。一石二鳥にも三鳥にもつながるビジネスモデルとなった。
PTA会長経験がきっかけ
そして、そこで得られたノウハウを生かし、猪上氏は2017 年、冒頭の「和プロジェクト」で新たな社会貢献を行う決
意をした。背景には、猪上氏が、2人の子供が通う市立松山小学校のPTA 会長を務めていたことがある。PTA に関わるようになって、地域の町内会や子ども会への加入率の低さに驚く。春日井区の16ある町の多くで町内会の加入率が50%以下で、中には40%を割っている町内会もあった。町内会に加入していない世帯は、子ども会にも加入していないケースがほとんどだ。
夏祭りなど地域住民の親睦のほか、清掃活動、防犯・防災活動などの場として存在意義を示してきた町内会だが、近年はプライベートを縛られたくない人も増えて加入率は低くなり、一部では「不要論」もささやかれている。春日井市役所によると、春日井市全体の町内会加入率は1981年の92.1%PTA会長経験がきっかけ9特集をピークに、2008年には68.4%、そして昨年になると59.6% と、年々減少しており、「有効な打開策がない状況」(市民活動推進課)だという。
そして、そんな猪上氏の熱い思いに賛同したのが春日井市議会議員の伊藤貴治氏だ。伊藤氏は、「行政ではなく民間がこうした活動を行うことが地域活性化につながる」としたうえで、「会費を気にすることなく自由に子ども会に参加できるようになればきっと子供たちの笑顔は増えるはずで、そうすれば大人にも行事への参加機運は波及していくだろう。これからも我々に何ができるのかをしっかり考えていきたい」と、活動への協力を約束する。また、引っ越し専門の「ウェルカムバスケット」(愛知県日進市)、同グループで住まいや暮らしの困り事を解決する「あんしんネットワークス」、そして猪上氏と同郷のオートレーサー・井上秀則選手もこの活動をスタートから全面的にバックアップしている。2017 年に松山小学校で初めて行った活動では、3台のトラックいっぱいに不要品が回収されスリランカに送られた。そこで得られた収益はPTA に還元された。その実績から、2018年には学校側でも不要品登校日を2度にわたり実施。
そして、同校の隣接姉妹校である春日井小学校も初めて不要品回収を実施した。
3町から9町へと参加拡大
「昨今の子供会や町内会加入の低下、横の繋がりが薄れていく中で、私たちが残していけることは人の繋がり、人の大切さ、人のぬくもり以外にない」と話す猪上氏。その熱い思いに応えるかのように、2019年はさらに同プロジェクトに賛同する町内会が拡大した。
今回、これまでの松山小学校、春日井小学校、如意申町、前並町、高山町の2校3町内会のほかに、西高山町、稲口町、下屋敷町、宮町、黒鉾町、春日井上ノ町の6町も参加者に名を連ねた。出された不要品の中には、「子どもたちの夢のために‼よろしくお願いします」
という温かいメッセージが添えられるなど、取り組みの目的は着実に浸透しているようだ。猪上氏は「今年は必ず春日井区全16町での回収を目指す」と意気込む。
12月7日に実施された春日井小学校。PTA 会長の中村明弘氏は、「家庭は不要品にあふれており、いわば宝の山だ。当校は2025 年に創立150 周年を控えており、記念行事のためのお金が必要だった。資源回収だけでは賄えずこうした活動はとても有意義だと思う」と話した。また、校長の穂迫順一氏は「家庭に眠っているものが有効活用されることは、使うほうはもちろん、出す側にとっても嬉しいこと」と喜んだ。
8日には高山町の長江勝郎会長が、「子どもたちに夢を与えられることが主旨だと聞き初めて参加した。不要品を回収してもらえて喜ばれるだけでなく、地域に還元されるということは素晴らしい」と話した。また、前並町の榊原啓幸会長は、「捨てればゴミで費用もか
かる。それが再利用され収益となり地域の子供たちに還元されるのはとてもいい循環だと思う。また、家の前に出しておけば回収しても
らえるので出す側の手間もまったくない。こうした利便性が町内会の加入率増のきっかけになるかもしれない」と期待を寄せた。
西高山町の北條詩則会長は、「伊藤貴治市議から誘われて今回初めて参加した。町内会の加入者に回覧板で周知をしたが、思ったより
はるかに多くの不要品が集まり驚いている。無料で引き取ってもらえるので皆さん喜んでいる。現在、西高山町800 世帯のうち町内会
に入っているのは300 世帯弱しかない。こうした便利な仕組みを知れば町内会への加入も増えるのではないか」とこちらも組織率アッ
プに期待を寄せている。
14日に行われた如意申町の長谷川孝司会長は、「何が出せて何が出せないのかを5ページ程度のカラー写真入り説明書で町内会に配布し周知に努めたところ、昨年と比べて倍以上の不要品が集まった。
不要品を処分すれば費用がかかるが取りに来てもらえばタダだ。しかも収益金は子ども会の事業に生かされる。私が子ども会の役員を
やっていた頃は子どもが300 人いたが今はわずか60人しかいない。それは町内会への加入率が低下しているからだ。こうした活動は子
ども会存続のためにもぜひ継続すべきだと思っている」と絶賛した。
14日には稲口町、下屋敷町が参加。下屋敷町の松下将士会長は、「初参加で周知などうまくいかない部分もあったが、来年度以降の改善
点としたい。私自身は町内会でもPTAでも肩肘張らずに広く浅く緩くやっていけたらいいと思っている。こうした活動を通じて町内会に対する拒否反応がなくなってくれればうれしい」と感想を述べた。
15日に実施したのは宮町、黒鉾、春日井の3町。宮町の益田直治会長は、「最初は半信半疑だったが、予想以上に不要品が集まった。
日本人にとってはモノを大切にする意識が高まり、海外の人には不要品を再度役立ててもらえる良い取り組みだと思う」と評価した。
また、今回初めて参加した春日井上ノ町町内会、亀田宗和会長の夫人から伊藤貴治氏に届いたメールを一部抜粋し紹介する。この文面に伊藤氏は、
「大変嬉しいメールだったので仲間とこの喜びを共有したい」と述べ、猪上氏は、「年のせいか涙もろくなる。春日井区に大きな協力者がまた一人できたことは嬉しい。亀田さんの文面で疲れが全部吹っ飛んだ」と感慨無量の様子だった。
子ども夢事業を全面的にバックアップする、春日井市春日井区の石黒佳彦区長は「昨年の実績を見てけっこうやれるのではないかと思っていた。今回は7町プラス2校の参加だったが、これが春日井区16町すべてに広がっていくのではないかと思う」と述べた。
また、「町内会の加入率は下がる一方で、啓蒙活動を行っているものの成果が上がらず暗中模索の状態」と町内会加入率の現状を危惧。「まずは加入率を維持することが大切だと思っている。この活動は人と人とのつながりをベースとした取り組みで、町内会活動の趣旨とも一致するので、今後の加入率低下を防ぐ重要なツールとなり得る」と大きな期待を寄せた。