物流業界新聞 ブツリュウアイ様 2019年 126号
1人の侍の熱い思いに賛同者続々
上記新聞の内容(原文そのまま)
本誌独占取材として例年お伝えしている不要品リサイクル事業「和プロジェクト」(既報)。そこから「子ども夢事業」が誕生した。ピアノなど軽重量物輸送を手がけるナイスキャリーサービス(愛知県小牧市)の猪上章社長が始めたプロジェクトは、家庭や企業、自治体などから出る〝使えるけれど使わない〟不要品を回収しそれらを必要としている国に販売(一部は寄付)、そこで得られた収益を地域コミュニティに還元することで子供会等の町内会行事に参加する子供たちを増やそうとするもの。何もないところから立ち上げた同プロジェクト。周囲からは「猪上はついに頭がおかしくなった」と揶揄されたが、2017年に春日井市の1つの小学校で実現すると、翌18年には2小学校3町内会へと広がりを見せ「子ども夢事業」へとつながった。
そこには猪上社長の熱い思いとその思いに賛同する市議会議員、PTA、子ども会、町内会の支援もあった。本誌では、プロジェクトの内容をおさらいするとともに、昨年12月に2小学校、3町内会で行われた活動の内容もリポートする。
猪上氏が実践する「和プロジェクト」は、自治体やさらに小さなコミュニティが抱える問題を解決する大きな可能性をも秘めているとしてマスコミなどにも取り上げられている。プロジェクトの基本的なコンセプトは4つの「わ」で成り立つ。それは、日本人の心としての「倭」、そして一人が得をするのではなく皆に循環させる「環」、人と人がつながる「輪」、最後に互いに相手を思いやり協調する「和」だ。具体的内容は家庭や企業、自治体などから出る不要品を回収し、必要とする国々に使ってもらうというもの。きっかけは2011年の東日本大震災。猪上氏の子供たちが通う待つ松山小学校のPTA会長や校長先生の呼びかけで集めた物資を宮城県気仙沼に児童の手紙と一緒にトラックで届けた。被災地で知り合った人々との縁で、同年に起きたタイ大洪水の際、宮城県と岩手県の災害対策本部に残った物資をタイへ送ると、現地の人々にとても喜ばれた。「日本で不要になった物がこんなに役立つのか」。猪上氏は、不要品の輸出・販売事業を本格化させた。これまでピアノやコピー機、金庫のような軽重量物の輸出をしてきたが、加えて引越し事業者や雑事代行サービスなどと提携しソファーや家具、ぬいぐるみや自転車などの家庭用品の回収を行うようになった。「不要品だけの輸出では採算が取れないが、軽重量物と同じコンテナの余ったスペースを使えば成り立つ」と猪上氏は説明する。国内のゴミを減らせるうえ海外で再利用してもらえるのならば社会貢献にもなる。まさに、一石二鳥にも三鳥にもつながるビジネスモデルとなった。
そこで得られたノウハウを生かし、猪上氏は2017年、冒頭の「和プロジェクト」で新たな社会貢献を行う決意をした。決意の背景には、猪上氏の2人の子供が同校に通い、猪上氏自身が同校のPTA 会長を務めていたことにある。猪上氏は、PTA に関わるようになって、地域の町内会や子供会への加入率の低さに驚いたという。春日井区の16ある町のほとんどで町内会の加入率が50%以下で40%を割っている町内会もあった。町内会に加入していない世帯は、子供会にも加入していないケースがほとんどだ。「加入しない理由を調べてみると、子供会費が払えない(払いたくない)、親が役員をやりたくない、といったものがほとんどだった。子供どうしのコミュニケーションが図れる大切な時期をそんな理由で参加できないのはかわいそうだ」。猪上氏は生まれ故郷の福岡で少年時代を過ごし、幼馴染とは今も交流がある。顔を合わせれば子供会のソフトボール大会や町民運動会など当時の思い出に花が咲くことも多く「子供会や町内会行事は僕たちの心のふるさとといっても過言ではない」と話す。そんな思いから、子供たちが気兼ねすることなく子供会に参加するために、自分にできることはないかと考え出した答えが「和プロジェクト」だった。また、猪上氏の熱い思いにPTA や学校など賛同者も増えていった。春日井市議会議員の伊藤貴治氏もその一人だ。伊藤氏は、「行政ではなく民間がこうした活動を行うことが地域活性化につながる」としたうえで、「会費を気にすることなく自由に子供会に参加できるようになればきっと子供たちの笑顔は増えるはずで、そうすれば大人にも行事への参加機運は波及していくだろう。これからも我々に何ができるのかをしっかり考えていきたい」と、活動への協力を約束する。また、猪上氏と同郷のオートレーサー・井上秀則選手も「普段、レースで二酸化炭素を排出しているので何か環境に貢献できないかと思った」と、この活動を全面的にバックアップしている。
2017 年に松山小学校で初めて行った活動では、3台のトラックいっぱいに不要品が回収されスリランカに送られた。そこで得られた収益はPTA に還元された。その実績から、2018 年には学校側でも不要品登校日を2度にわたり実施した。そして、同校の隣接姉妹校である春日井小学校も初めて不要品回収を実施。さらに、町内会や子ども会加入の低下によって子供たちが地域行事に自由に参加できないという不均衡を無くして、地域の行事に自由に参加できるようにしようという3町内会が不要品回収プロジェクトに参加した。また、不要品回収で得られた収益金は地域の子供たちのために使ってもらうという趣旨のもと、「子ども夢事業」と称し春日井区で口座を開設するなど、思いの実現に一歩ずつ近づいている。「昨今の子供会や町内会加入の低下、横の繋がりが薄れていく中で、私たちが残していけることは人の繋がり、人の大切さ、人のぬくもり以外にない」と話す猪上氏。今後も賛同者は広がりを見せそうだ。
前回の成功で「不要品登校日」設定
2018 年12月2日、愛知県春日井市立の松山小学校で不要品の回収が行われた。前年に引き続き行っているリサイクル活動だ。 学区エリアにある12か所の公園を不要品の回収場所として事前に告知し、大きな物や重くて動かせない物についてはナイスキャリーサービスおよび猪上氏の活動に共感した引越事業者のウェルカムバスケット(名古屋市名東区)のトラックが、指定した時間通りに回収に回った。不要品といえども決してゴミではなく、タンスや自転車、ぬいぐるみなど、まだ十分使えるものの家庭で必要なくなったものが中心。およそ2時間の回収時間で、2トントラック3台分がいっぱいとなった。
「子供と女性は万国共通なんですよ。小学校にこだわってやっているのはそのためでもあるんです」と猪上社長は話し、次のように理由を説明する。「子供は成長段階なので服や靴のサイズがすぐに変わる。また、お下がりを身に着けるという時代でもないので不要品が出てくる。こうした機会をつくれば捨てるゴミが減っていくだけでなく、欲しい人に有効活用してもらえる」。この日に集められた不要品はフィリピンで販売し、そこでの売上から諸経費を控除した収益全額をPTA に還元する。また、当初から同プロジェクトに賛同し、活動に協力をしている春日井市議会議員の伊藤貴治氏の橋渡しで、松山小学校と春日井小学校で安全基準を超えた机と椅子30セットずつ計60 セットを同じコンテナに載せフィリピンの学校に寄付する。
松山小学校の吉田啓介校長は、「不要品をゴミとして燃やしてしまえば二酸化炭素を排出し環境にも悪い。捨てるのではなく海外の人に活用してもらおうという取り組みは児童の環境教育にも大いに役立つ」と絶賛。「この活動は、使わなくなった服や靴、おもちゃや文房具を提供することで子供たちが自分で考え主体的に動ける機会でもあり大変貴重だ」と、活動の意義を説明する。なお、今回集まった不要品の還元額は2万3200 円となった。 2017年に同小学校で初めて開催された活動の収益およそ3万円は、すべてPTA に還元され、小学校のために使われた。そうした実績から、昨年は児童主体の動きが進み、学校が新たに不要品登校日を設定。児童たちが持ち寄った不要品を海外で販売し、そこで得られた収益を児童らのために活用するなど、猪上氏の取り組みがきっかけとなり、リサイクル(環)の意識が高まりつつある
姉妹校「春日井小学校」でも不要品回収
12月9日は、松山小学校の姉妹校でもある春日井市立春日井小学校で不要品の回収が行われ、3台のトラックが学区内11か所で不要品回収に回った。
前年の松山小学校に引き続き不要品回収に協力した経緯について、同小学校PTA会長の三関淳一氏は「猪上さんと知り合い、地域の活動をする中でとても共感を覚えた」と説明。続けて、「今の時代、小学校や中学校、そして子供会とその他で新聞紙だったり空き缶だったりといった資源の取り合いをしている状態だ。私の妻も子供会の役員を経験していて資源が集まらないという苦労を身を持って知っている」。そうした中で、資源という枠組みではなく、不要品として物品を集めて海外に送ることは、家庭などから出るゴミもなくなり、さらに海外の学校からお礼の手紙が届くなど「環境に優しいだけでなく、子供たちの交流にもつながる。これは絶対にやるべきだと思った」と熱く語る。
松山小学校と春日井小学校で春日井区と呼ばれるが、もともと春日井区で何かやりたいと思っていた時期でもあった。
「私は副会長を経験して今期が会長1年目だ。歴代PTA役員の力添えもあったからこそ今回の事業もできた。まだやってみないとわからないことがあるが、自分たちで少しでも収益を上げることができれば数年後の周年行事に向けて少しでも役に立つと思う」と今後も活動継続に意欲を見せた。最後に三関会長は、「猪上さんの無から有を作り出せるパワーはすごい。この活動は全くリスクもないので春日井区の町内に波及するはずだ。そうなったときにいろんな方面からも注目されるだろうと思う」と述べた。
なお、この日回収された不要品で2万3700円がPTAに還元された。
3町内会も取組みに手応え
12月15日には、如意申(にょいざる)町で、翌16日には前並町および高山町町内会合同で、それぞれ初めて不要品の回収が行われた。如意申町で集められた不要品については、2万1600円が町内在住の子供たちへの基金(子ども夢事業)として還元された。前並町内会長の大原泰昭氏は、「初めて聞いたときはそんなに不要品が集まるのか、ゴミしか集まらないのではないかと思っていたが、猪上さんの話しを聞いていたらそうした不要品が海外で再利用されるとのことだったのでそれは面白いと思った」と経緯を説明。「普段、子供会や町内会は古紙やダンボールなどの廃品回収で助成金をいただいて運営しているが、新たに不要品という分野で収益源が生まれるのは有難いことだ」と感謝の言葉を述べた。高山町内会長の入谷誠さんは、「高山町の町内会加入率は4割程度だが、それでもこれだけ多くの不要品が集まり驚いている」と素直に喜ぶ。そして今後も年2回くらい不要品回収を行いたいとの考えを示した。
前並町の子供会会長を務める南部真由子さんは、「物を捨てるのも大変な時代に、海外で再利用していただけるという話しを聞きぜひ子供会としても協力したいと思った。子供たちのための夢事業をしたいという猪上さんの思いにとても共感しました」と話す。
また、収益金が還元されることについても「子供会は毎年ギリギリの予算で運営している状態なので、基金として還元していただけることはとても助かるし子供たちにとって夢がある。不要品を出せるだけでも有難いのに、会の運営費用にもつながる活動なので、今後も続けていきたいと思っている」と意欲を見せた。
仕事でなく生き方選んだ
「たかはる! これも持って行って」。活動最終日となった16日は、春日井市議・伊藤貴治氏(34)のお膝元でもある春日井市前並町および高山町町内会合同での回収日。伊藤氏は、トラックに帯同し、各家庭の軒先に出された大型不要品の運び出し作業を手伝った。すると至るところで「たかはる」という呼び声が聞こえる。「ウチで取れた大根、持って行って」。そのどれ
もがとてもフレンドリーで、普段の議員活動を通じ、伊藤氏が地域に愛されている様子がうかがえる。 伊藤氏はかねてから春日井市はじめ各地域の町内会や子ども会の加入率の低さに「地域のつながりが希薄になっている。これはすごくマイナスなこと」と危機感を抱いていた。そうしたタイミングで猪上氏と出会い、同じ思いを持つ者どうし意気投合し、活動を共にしている。伊藤氏の思いは「目指せ、子供会加入率100%」というもの。地域の子供なら誰でも会費なしで自由に行事に参加できる環境を整えたいと考えている。具体的な行事としては、年に1、2度さまざまな分野で活躍する一流のアーティストによる夢事業の実施だ。「サッカーの香川やカズが地域に来て、イチローや大谷クンが地域に来て夢を語る。それが毎年当たり前に私たちの地域で行われる。地域に住む子供なら誰でも自由に参加できたらワクワクしませんか? 私はそんな環境を本気で整えたいと考えています」と目を輝かせる。回収日の多くは日曜日にもかかわらず、すべてに参加した伊藤氏。この日も朝から「側溝を見てくれ」、「公園の木が倒れそう」という要望があり、現地に出向いてからの参加だった。「休日なのに大変ですね」と声をかけると、「私は市議会議員という職を仕事としてではなく、生き方として選んだつもりです。まったく大変だとは思いませんよ」と爽やかな笑顔が返ってきた。この日は過去最高となる1・5トン~4トントラック延べ12台分の不要品が集まり、7万1800 円が如意申町同様に基金として還元された。
今回の不要品の海外リサイクル活動を終えて、猪上社長は、活動を始めるに至った経緯と関係者への感謝の気持ちを次のように語った。そして、こうした川下から始める「リサイクルを通じて地域活性化につながる活動」を今後も拡大していく決意だという。
東日本大震災以後、各地で次々と震災があり、そのたびに掻き立てられるように走り続け多くの出会いを頂きました。そこで感じたのは地域の繋がりでした。私の現在の地元、愛知県春日井市では町内会加入率も子ども会の加入率も低く、言葉は悪いですが「仕事があるから」とか理由をつけ、役をやりたくない理由で加入していない方々が非常に多いのが現状です。私は対極からその現状を見て、入っている体で考え不要品で活動費を生み出し、まずは子どもたちが自由に地域行事に参加できるようにしようと思い、有志
で始めたのがきっかけです。それに春日井市議会議員の伊藤たかはる先生が賛同してくださり町内会長さんに話をしていただき前向きな町内だけでもやろうと今回このように実現に至りました。輪を作り上げるために不要品を回収し海外で販売・寄付、そして収益金を地域へ還元し、それが子どもたち全員が自由に参加できる子ども会など地域を作りに生かされる。現在進行形ではありますが、そんな和を作り続けていこうと思っております。現在この事業が口コミで広がりお仕事へも繋がってまいりました。待つのではなく、自分たちから進んで地域に参加させていただくことで、結果的に仕事に繋がってきました。世の中では働き方改革で色んな意見が出ていますが、待つのではなく、もらうでもなく、生み出すことこそ環をもって和に繋がり輪が出来上がると実感いたしました。この取り組みはこれからも続けてまいりますが、運送業界が低迷する中、物流とは何か?運送とは何か?を地域ボランティアである不要品事業の取組みにて何かを感じれたような気が致します。